飛ぶコタツ

妄想の空をどこまでも…

猫と目が会うと無限になる。

招かれて向かう道で猫と目が会った。
私と猫、どちらも目をそらさない。
そのまましばらく時間が止まった。
どれくらい経ったか、また時間が動き出し、猫は少し後ずさりした。猫が動いたから時間が進み出したのかもしれない。
私はちらりと自分の足元を確認し、そして右足を一歩踏みだした。
その気配を感じたらしく猫はさらに後ずさりした。
猫の目は相変わらず私の目を見ている。私の目も猫の目を見ている。猫は私の目に映った猫自身の目を見ている。猫の目に映った猫自身の目を私も見ている。
それは無限に続く。
私はコマ送りの動きで左足も一歩踏みだした。
猫はもう動かない。猫の背に深い谷があった。
猫は尻尾をピンと立て、背中の毛も逆­立てた。
そして頭をゆっくり下げて腰を上げ、前足に重心を移した。目はまだなお真っ直ぐに私を見ている。
上から何か落ちてきた。
私も猫も同時に首をすくめ、目線だけ上に向けた。
それからずっとずっとゆっくりと視線を上げていき、やがて私も猫も真上を向く格好になった。
私と猫の頭上に電線があり、一羽のカラスがとまっていた。
カラスは一鳴きし、何かをまた落としてきた。
フンだった。
私と猫は力なく目線を下げた。何も見なかった、何も起こらなかったことにしよう。
私は猫の気持ちが分かった気がした。おそらく猫も私の気持ちが分かったのだろう。
そして、それぞれの道をまた歩きだすことにした。
もうお互い会うことはないだろう。目はもう会わさない。
羽音が聞こえてきた。カラスが飛び去った音だ。スッキリしたからか、私と猫のやり取りが終わったからか。
招いてくれた家でその話をすると、「もう少しでしたな」と穏やかにその家の主人は言い、目を糸のように細めて笑った。
私はその目をじっと見つめた。主人も糸の奥から私の目を見返している。

 

 

 

 

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山人(sanjin)👣@飛ぶコタツ